週刊 風とロック 月刊風とロックの裏情報満載!

飛び出せ!ロックベーシスト!

プロローグ ~ ドドドドドドドドド ~

ドドドドドドドドボボボボボボボドドドドドドドドボボンドドン。
俺、ベーシスト。アマチュアバンドでベースを担当している。今、LIVE中。AメロBメロサビが終わり、俺には少しの休息が訪れた。
嗚呼…ギターソロ…あいつは気持ち良さそうにステージの真ん中に立ち、思うさまギターをかき鳴らしている。ボーカルはそんなギタリストに寄り添い、「人」という字を2人で描きながら、エアギターをかきならす。歓声と共に、照明さんがスポットライトを当てる。俺以外の場所に。今、誰も俺を見ていない。ああ、一人たりとも俺を見ていない。変な顔をしてみた。ホラ、誰も見ていない。もうすぐギターソロが終わる。そろそろ準備するか。
ドドドドドドドドボボボボボボボドドドドドドドドボボンドドン。
俺、ベーシスト。

さて。こんなミニドラマに、怒りを覚えるミュージシャンの方がいらっしゃるかもしれない。「お前はロックをバカにしているのか」と。毛頭もバカにしていない。ただ、ふとした疑問が浮かんだだけ。
『音楽始めるときって、普通ギター買うよな…』
ギタリストに憧れ、ギターを買う。コードを弾いてみる。リフを練習してみる。段々楽しくなる。バンドをやりたくなる。友達とバンドを結成する。ギタリストは1人。

私は、『ベーシストが生まれる瞬間に起こること』を知りたいんです。ボーカル、ギターに比べて、明らかに日の当たらないベースという楽器を選ぶ瞬間。そこには、ある種の『ロック』が隠れているんじゃないだろうか。
地味地味と言われ続けるベーシストに、スポットライトを当てた瞬間。そこには、ものすごく素敵な光景があるんじゃないか。そうすれば、もっとみんな、ベーシストを目指すんじゃないだろうか。そんなことをボンヤリ考えたわけです。
だってさー、女性ボーカルとギタリストのバンド内結婚って多くない?マジで。
古くはリンドバーグの渡瀬マキ&ギタリスト平川達也。もっと渋いところでいうと、永井真理子&バックバンド『ヒステリック・ママ』ギタリスト廣田コージ。知らないからホント。渋すぎるから。最近だと椎名林檎も、バックバンドのギタリスト、弥吉淳二と結婚してたし。離婚したけど。あと市井紗耶香と「CUBIC-CROSS」のギタリスト吉澤直樹。ギタリスト需要もモー娘。まで来たか。
ホラね。バンドのベーシストと結婚したのって、トミーフェブラリーくらいですよ。トミーヘブンリーくらいですよ。川瀬智子ちゃんくらいですよ。数少ないので何回か言ってみた。でも寂しいだけだった。
さあ、飛び出そう若人たちよ。ベースこそロック!ベーシストこそロック!女性ボーカルは、もっとベーシストと結婚せよ!
そんな熱い思いを伝えたい。

第1章:名もなきベーシストインタビュー

とは言っても、こっちはバンド素人。何の手がかりもない。しかも、プロのアーティストにこんな疑問をぶつけてもなかなか答えてもらえなさそう。そんなわけで、アマバンを始めたばかりの少年少女が集う、某BBSに、身分を隠して潜入することにした。

★ベェスを始めたキッカケをぉしえて下さぃ★

えっと…最近の小文字使いはこんな感じでいいのかしら。やっちゃった?俺やっちゃった?何か今恥ずかしくなってきた。レスポンスをお寄せいただいた方々のコピーライトもあるかと思いますとかいうのを隠れ蓑に、恥ずかしさを紛らわせるべく以下要旨抜粋。

▼私は最初断然ギター志望でしたが、ジャンケンに負けた為ベーシストになりました。(負け続けていたら、ドラマーになっていたでしょう)

▼わたしも中2のとき、友達とバンドごっこをして、ジャンケンで負けました。勝ってたらボーカルかギターやってただろうし、最後まで負けてたらドラムやってましたね(笑)

ぬおおおお!カッコ笑いカッコ閉じ!やはりジャンケンで勝ってたらボーカルかギターかっ!そしてドラムの位置低っ!

▼高3の時、友達のバンドに、「ベースが練習来ないから、オマエやってくんない?」と言われたのが最初。
ダメだったらその1回限りのつもりでしたが、「オマエうめーじゃん!」とおだてられ、調子に乗りました。

▼当時、片思いをしてた女の子に、『ウチのバンドにベースがいなくなっちゃったからやって(ハート)』と言われ、ホイホイとベースを始めました。「結構やるじゃん」と言われた瞬間に、僕のベーシスト人生が決まりましたね。

あああああ…世が世なら詐欺商法ですよそれは。美人のおねえさんに声かけられてホイホイ付いていったら、すっげーうさんくさい宝石売りつけられる的な。○ッセンの絵を売りつけられる的な。すんごい怖いオッサン出てきたよ的な。ベースは騙されて始めても全然いいけど街角で声かけてくる美人には要注意だ。

▼文化祭でバンド組んで騒がれよう!…という計画が、ツレの間で持ち上がったんだけど、俺よりも断然ギター巧い親友がいた。そいつは、勉強も出来たし、スポーツも万能だったし、モテたし、俺が敵うものはハッキリ言って、何ひとつなかった。違う高校に通ってたら、間違いなく俺は、ギターをやってたと思う。

全米が泣いた!俺も泣いた!徳光さんは泣いてない!まあ誰が泣こうといいんですが。切ないなー…万能感の喪失…思春期には必ず通る道でございますが。切ないね。敵わない親友を持つと、優しい大人になれますよ。それにしてもギターかやっぱり。

▼もちろん、最初に手に取ったのはギター。でも友達が貸してくれたのは、アコギでした。弦が堅くて指いてー!と思い、バンドやろうってなったときには、ギター以外がイイと勝手に思い込んでた。エレキを触らないまま。で、ベース持ったら、簡単に音出るじゃん!…で、それ以来べース。

分かる!それは素人の俺でも分かる!アコギは指痛い!CかDくらいしか無理!エレキギターのやわらか弦が衝撃だったもん!すいません素人丸出しで。でも堅い。指先が堅いだけで俺は男としてソイツを尊敬する。ハードル低いな。

▼私、最近ベース担当になって、何回かみんなの前で演奏したんですけど、母親から、「アンタのベースだけ音聞こえない。ギターの子の音は良く聞こえるのにねぇ」と言われてちょっとショック。

ボーカルが喚いて、ギターがギュイギュイ言ってると、聞き逃しがちなベース音!ちゃんと鳴ってるからねお母さん!低音に耳をすませて、カワイイ娘のプレイを聞き取ってやってください腹で感じてやってくださいボボボボボボボボドドドドドドドド!

さてと…一旦まとめると、みんな、やっぱりギターやりたいんだね。あと、『ベースは縁の下の力持ち!』『ギターとかボーカルが自由に遊べるのも、ベースがウラで舵取りをしているからこそ!』みたいな意見を、最後にくっつけてる人が多かったなあ。いや実際そうなんだろうけどもさ。もっと目立ちたい願望が見え隠れしてない?考えすぎ?見え隠れさせないでさあ、もっと目立っていこうよ!節度をわきまえなくてもいいじゃん!ほら、今から目立ちまくったベーシスト列伝、紹介するから!

第2章:ロック・ベーシスト列伝

※矢沢永吉(元キャロル)
  忘れるな!永ちゃんはキャロル時代、ベーシストだ!これ以上何か言う必要あるか!ベース&ボーカル担当!これ以上目立ちまくったベーシストがいるか!
  ちなみに、アレだけハーコーで鳴らしたキャロルは、1974年頃、当時の音楽雑誌『ガッツ』に特集記事で登場!そして普段着ファッションを披露!どうしたキャロル!ダッブダブのバギージーンズをザックリ着こなす永ちゃん!ブルース・リーの衣装でカンフーポーズを取るジョニー大倉!明星かと思った!どうしたキャロル!方向転換か?…と思った次の瞬間、僕は納得した!「今一番やりたいことは何?」という質問に答えて矢沢永吉。「ベースの練習」…やっぱり俺たちの永ちゃんだった!カッコイイ!ベーシストはどれだけ持てはやされてもひたすら練習!

※スティング(元ポリス)
  ニヤリ。ニヤリ顔がここまで似合うのは、スティングとプーチン大統領くらい。ゴメン多分もっと他にいると思うが。キレ者。ニヒル。物静か。音楽やる前は高校の先生やってたくらいですからね。インテリですわインテリ。「ふっ、バカな…」そんなセリフが、スティングの目の奥から聞こえてくる。「『見つめていたい』は、甘いラブソングじゃなくて、胸クソ悪くなるくらいの監視・束縛・嫉妬の歌なんだけどね。ふっ」よっ!ニ・ヒ・ル!ニ・ヒ・ル!そんなスティングも、ポリス時代はボーカル&ベース担当。
  スチュワート・コープランドが、スティングをポリスというバンドに誘ったのは、スティングのルックス &超音波のように甲高いボーカルで、売れ筋の曲を出せば人気出ると踏んだから。それはもう間違いない。でも結局、俳優としても人気出過ぎたスティングに、残りの2人が嫉妬して解散。コントか。でも良くある結末。そんな波に揉まれても、淡々とソロでヒット連発のスティング。ベーシストでも、ルックスを磨けば、嫉妬されるくらいの注目を集められる。さらに冷静でいれば、解散のゴタゴタも乗り切れる。世のベーシストの皆様。知らず知らずのうちに、衣装が地味になっていませんか?まゆ毛の処理を怠っていませんか?クラスの席替えで人一倍はしゃいだりしていませんか?スティングに鼻で笑われますよ。

※シド・ヴィシャス(元セックス・ピストルズ)
  弾けてない!お前弾けてないよベース!そんなツッコミとは全く関係ないパンクな男、シド。元々ピストルズのメンバーだったわけじゃない。というかむしろ元ピストルズファン。ピストルズの記者会見中に、記者が邪魔で『ピストルズが見えねーぞ!』とか言ってその記者をぶん殴ったりとか。何してんだよ。そんなツッコミとは全く関係ないパンクな男、シド。社会からハミ出したパンクの世界からもハミ出して死んでいったこの男から、その精神を学べとは言わない。というか学んでほしくない。無理。死ぬし下品だし。学びたいのはバンド加入法。「ベースが練習来なくてさー、ベースやんない?」みたいな詐欺的な誘われ方が横行する中、「俺を入れろ!俺はこのバンドのファンだ!ちなみにベースは弾けん!」…こういう押し込み方でベースを始めるのはどうだろう。何となく偉そうにしていると、いつの間にか偉い人として扱われる。どの世界にもよくあること。『偉そうに始めるべース入門』を出版しよう!

※ゼノン石川(元聖飢魔Ⅱ)
デーモン小暮閣下!エース清水長官!Sgt.ルーク篁Ⅲ世参謀!ライデン湯沢殿下!ゼノン石川和尚!オショウかい!明らかに1番階級が下というか別次元というかお寺というか悪魔と和尚はコラボレイトできるんですね!さすが悪魔!発生地は地獄の貿易港『サイドビーチ』!B.D.13年の第4回悪魔事異動で構成員となる!聖飢魔IIの二代目ベーシスト!色々あるけど、とりあえず生まれたのは港なのかビーチなのかハッキリせい!
ツノを生やし、顔を白く塗り、悪魔なのに和尚と呼ばれた男…しかし、同業者の間では、「24時間ベースのことを考えているプロはゼノンだけ」と呼ばれた男でもある!ゼノンより巧いのはゼノンだけ!VIVOより美味しいのはVIVOだけ!年がバレる!しかも、悪魔ベーシスト『ゼノン石川』から、人間ベーシスト『石川俊介』となった後にヒトコト!「悪魔の頃の記憶は全くない」。あそう。ないの。さすが。ロックベーシストの鑑。見た目はド派手に!努力はひたむきに!そして過去は振り返らない!ロックなベーシストの三要素ってコレなのか!永ちゃんに通じる何かを感じる俺の気は確かか!

※いかりや長介(ドリフターズ)
  長さん!ダメですか?俺はダメですか?…ダメ出しをされたい時に、いかりやはなし。
  「ベーシストとして、日本で最初にチョッパー演奏を始めたのはいかりや長介だ」伝説。いまだにベース界には根強く残っているらしい。『いかりや弾き』と呼んだりしているらしい。見たことがないから分からん。でも武道館でビートルズの前座を務めたベーシスト。つまりは日本のポール・マッカートニー。いいのかそんなこと言って。似ているのは唇だけだ。本気で言っているのか。
  彼はかつて、横田キャンプで、米軍将校相手に演奏していた。あの顔でそうあの顔で。客から野次が飛んだ。「HEY YOU! YOUはなぜ、そんなにつまらなそうな顔で演奏しているんだ」おい将校!いかりやはそんなにブサイクじゃない!将校はそんなこと言ってない!「YOUは何か心配事でもあるのか?YOUたち、明日からボイスレッスンしちゃいなよ」あ違う人になっちゃったゴメン「YOUは背も高いし、目立つから1番良くない。ショーなんだから俺たちを喜ばせてくれ。何も出来なければスマイル、スマイル、スマイルだ」そして彼は、のちに伝説となった。この将校の野次が、いかりや長介の輝ける未来への一つの契機になったことは確かだろう。仏頂面はどんなコントでも変わらなかったけど。アカンやん。あっ!せっかくダメだこりゃのタイミングなのに大阪弁!MOTTAINAI!しかもまた全然ダメなことない!
  ベーシストなら必ず一度は言われてしまう、「HEY YOU 地味!」「HEY YOU つまらなそう!」…それを無理に変える必要がないことを、長さんは示唆している。表面的に変えるくらいなら、いっそ仏頂面を売りにするネタにするオチに使う。そこまでやりきってこそ本物のベーシスト。男は黙って下唇。無意識の仏頂面と意識的な仏頂面には、天と地ほどの差があると、伝説のショーマンは言いたかったはず。

エピローグ ~ ドドン、ボボン。

私最近、好きな人ができました。
好きっていうか、憧れって言ったほうがイイかもしれない。
LIVEハウスで偶然見かけた、あのバンドのベーシスト。

ファンの子たちは、ほとんどがボーカルとギタリストにキャーキャー声を上げてたみたいだけど、
私の目に飛び込んできたのは、スポットライトのその横で佇む、彼の姿だった。
無表情…頭からツノを2本生やし、やる気がなさそうにベースを構えて立っていた。
ギターソロが始まると、そのベーシストは、明らかな嫉妬のまなざしを、ステージ真ん中の2人に向けた。
分かる。私と同じ。私もずっと、美人で明るい親友の隣で、イヤな思いをし続けてきたから。
あの子が私の親友じゃなければ、どんなに良かっただろう。スポットライトのすぐ脇の影は、とてつもなく暗い。
あれ今、変な顔した?彼は思いっきり下唇を突き出した。何回も何回も。誰も見てないと思って。
あの人気バンドのベーシストは、その瞬間、私だけのベーシストになった。
シャレコウベの首飾りが揺れている。
下唇は元に戻り、彼は元の仏頂面に戻った。
私は見てるよ。アナタのこと。
あの、赤と白のハーフ&ハーフに塗られたメイクの下には、きっと端正な顔があるに違いない。
私には分かる。
ステージの上で、あれだけの存在感を放ちながらも、その場から一歩も動かず静かに立ち続けるなんて…

彼みたいになりたい。彼のように生きたい。
そう思いながら、私は彼の奏でるベースラインを口ずさみ始めた。

ドドドドドドドドボボボボボボボドドドドドドドドボボンドドン。
最高。

TEXT:山本佳宏
放送作家 1974年生まれ。僕の中学生時代に好きだった女の子は、結局バンドをやってる同級生と付き合いました。そいつの担当楽器はサックスでした。1曲の中で合計10秒くらいだけスースー吹いてました。バンドやってれば何でもいいのかとショックを受けました。」