VOICE magabon interview

No.209 阿部寛(俳優)

「天国からのエール」は夢物語のようだけど
現実であるという、夢のある話

阿部寛の主演映画「天国からのエール」は、沖縄県本部町で小さな弁当屋を営みながら、私財を投じて無料音楽スタジオを設立し、ミュージシャン志望の高校生たちを育てていった故・仲宗根陽氏の実話に基づく物語。昨年、書籍「僕らの歌は弁当屋で生まれた・YELL」(泰文堂)も刊行され注目を集めている。
映画のロケは、実際の弁当屋とスタジオがある本部町で行われた。志半ばで病に倒れ、自らの余命を知りながらも、若者たちの夢を応援し続けた彼の生き様を、阿部は全身全霊で体現。仲宗根氏にまつわる人々と交流しながら、ディテールにまでこだわって演じたほど、思い入れの深さは半端じゃない。また、夫を支えるしっかり者の妻・美智子役のミムラや、劇中の学生バンド、Hi-drangea(ハイドランジア)のメンバーを演じた桜庭ななみ、矢野聖人、森崎ウィン、野村周平ら若手俳優陣も、フレッシュな魅力を発揮している。
震災後、人と人とのつながりが見直されてきている今、「人は、他人のために何ができるのか?」というメッセージも、心にじんわりと響く本作。そこで阿部寛に単独インタビューを敢行し、本作に懸ける想いをたっぷりと語ってもらった。

阿部寛

――仲宗根さんのお話を聞かれた時のご感想は?
「最初は仲宗根さんの映像を見てなかったので、借金をしてまでスタジオを作って、子供たちのために尽力した人がいたってことが、夢物語のような気がしました。それでNHKのドキュメンタリー映像を見たら、だんだん彼の人となりが分かってきて。現場に行っても、仲宗根さんゆかりの人たちに会うことができて、だんだんこの話が現実にあったことなんだとつかめていきました」

――映像で仲宗根さんの表情を見た時、どんな印象を受けましたか?
「目がすごく澄んでいる人なんです。少年のように純粋で。あの目が全てを物語っているなって。そういう目になるまでいろんなものを見てきたと思う。この限られた時間の中で、僕にこの目はできないって思った時、全身でぶつかって、自分の中で表現するしかないと思ったんです。だから、仲宗根さんの過去の映像を毎晩のように見ながら、撮影をしていきました」

――実在の人物の役ということで、責任感やプレッシャーは大きかったですか?
「それは大きかったです。残念ながら、仲宗根さんにはお会いできなかったんですが、僕が役を演じることは、ご存じだったので。しかもそれを喜んでくれたと聞いていたから、これはただごとじゃないなって思いました。映画の上映時間からいくと、仲宗根さんの全てを表現することはできないけど、一番伝えたかったことを伝える役目にはなるんだろうなと思ったので、すごいプレッシャーを感じました」

――役にはどういうふうにアプローチをしていったのですか?
「料理や沖縄弁など、初期段階の準備でやれることだけはやって、後は仲宗根さんの佇まいの映像や、料理を作っている映像を見ながら、彼の癖を研究していきました。でも、一番難しかったのは、性質ですよ。仲宗根さんが子供たちに、どうぶつかって、どう一緒に歩いていったのか、どんな子たちがいたのかなど、そういったことは映像でも文字でもなかなか残っていなくて。だから、仲宗根さんの奥さんや、ゆかりの人に取材をして、彼の人となりを追っていくのにけっこう時間をかけました。実際のお弁当屋さんやスタジオで撮影したので、仲宗根さんはこの場所で何を考えていたんだろうとか、ここから子供たちが帰っていくのを見ていたのか、と距離感は想像しやすかったです」

――「昔はいろんな人が助けてくれた。今の若者にはそれがない。そういうのをほっときたくない」というセリフがぐっと胸に染みましたが。
「今、都会に住んでいると、近所付き合いとかが希薄になって、震災があったから少し変わったかもしれないけど、それまでは隣の人の顔も知らないし、関わりたくないというのが当たり前で。でも、仲宗根さんはそれとは真逆の考え方で。助け合って、人を信じる。信じれば、その人も返してくれるってことを、沖縄の昔の人は信じて生きていたんです。伝えたい気持ちがあれば、違う環境で生きている人にも必ず伝わるんだと信じていて、本当にそれを伝えようとした。その努力や精神がすごいですよね」



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