VOICE magabon interview

No.234 阿部寛(俳優)

阿部寛

――「赤い指」で父との和解があったはずなのに、今回はさらに深く父子の関係を追求していますね。
「そうなんです。父・隆正(山﨑努)との関係は『赤い指』で決着したはずなのに、登紀子(田中麗奈)はさらに新しい事実をつきつけてくる。登紀子に『あなたが見てきたのは死体です、私は生きている人間を見てきました。あなたは分かってない!』その言葉に加賀は愕然とする。もしも捜査だとしたら、加賀が思いっきり見落としていた、ミスしたことになりますからね。父の背中を見つめてきたはずなのに、登紀子から父のさらなる部分──哀れさ、息子に対する弱さを知らされるというのは、すごくショックだったはず。と同時に、ものすごく嬉しかったんだと思うんです」

――登紀子によって気づかされたものを、加賀は中井貴一さんと松坂桃李さん演じる青柳親子の和解に活かすわけですね。阿部さん自身も、父子の関係をふり返ってみたりしましたか?
「僕の父はエンジニアでとても寡黙で、貴一さんが演じた父親のように仕事一辺倒な人です。決して嫌いだったわけではないんですが、十代の頃は父と話した記憶がないんです。ドラマや映画はストーリーとして見ているので、言葉にしなくても伝わる部分はありますが、実際は言葉にしないと分からないことがたくさんある。だから、言葉なく行動していた親父の姿は、隆正とかぶりました。(気持ちを)言葉にしたことが一度もなかったということは、言い訳をひとつも言わなかったことでもあって。自分が三十代になって親父をふり返った時、ひとつも言い訳をせずに生きてきた親父の姿が走馬灯のように浮かんできた。だからそれ以来親父を理解し、尊敬してきた。ただ、僕自身としては、言葉にしなくて分かってもらえるのは一番いいことだけれど、できることなら言葉にして、その都度解決していけたらなと思っています」

――どんな家族だったんですか?
「子供の教育は母親に一任されていたので、親父は子供と話す機会もそれほどなかったんです。おまけに、テレビのチャンネルの権限も子供に奪われるので、夕食後は風呂に入って、寝て、朝また仕事に行く─その繰り返し(苦笑)。静かに家族を見守っている感じでした。でも、何か重大なことを決めるのは親父でしたね。僕がこの世界に入る時も的確な意見をくれましたし、姉貴の結婚の相談相手も親父で。なんて言うか、的確な意見を言ってくれるんです。ひとつも言い訳をしないで生きてきた父、心の内はすごく孤独だったはず。そういう親父だったからこそ(いざという時に)発した意見にドーンと重みがあるんです。親父の凄さが分かるようになったのは、こうして年を重ねてからですね。『麒麟の翼』は、そんな気持ちを思い出させてくれた作品でもあります。溝端(淳平)とか若手のスタッフ&キャストは、完成した映画を観たあとに親に電話したって言っていました。心を動かす作品になったことは、本当に意味のあることです」

――親子、恋人、友人…さまざまな人間関係を見つめ直すきっかけになる映画ですよね。続いて、加賀の相棒、松宮役の溝端さんについても伺いたいなと。ドラマシリーズからの息のあった演技をみせていますが、改めて彼の印象を聞かせてください。
「とにかく明るい。踏み込んでくるし、恐れないし、遠慮っていうものがないようであるのが彼の魅力です(笑)。現場では使命感みたいなものを持っていて、そういうところは松宮と似ています。松宮として見ると、加賀にやり込められることが多いので頼りないところもありますが、役者としては頼りがいのある役者です。この前、ドラマのコナン(『名探偵コナン ドラマスペシャル 工藤新一への挑戦状!怪鳥伝説の謎』」をやっている姿を見て、格好つけの役も板にはまっていたし(笑)。『BOSS』のおちゃらけた役であってもブレーキをかけないところは彼のいいところ。入れ替えの上手さは尊敬します」

――その溝端さんは、共演者であり先輩である阿部さんの背中を見て、多くを学んでいると思いますが、40代後半に突入し、後輩を引っぱって行かなくては!という意識もありますか?
「僕が中井貴一さんや役所広司さんといった先輩たちの姿を見てきたように、後輩は先輩の姿を通して、自分も何年後にこうなりたいと思うもの。自分もそんな存在になれればと思います」

Text : Rie Shintani
Photo : Megumi Nakaoka

麒麟の翼~劇場版・新参者~
(C)2012映画『麒麟の翼』製作委員会

麒麟の翼~劇場版・新参者~
2012年1月28日(土)より
全国東宝系全国ロードショー



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