VOICE magabon interview

No.238 渡辺謙(俳優)

渡辺謙

――JAXAの予算はNASAの10分の1だとか。“ボロをまとったマリリン・モンロー”というキーワードが象徴的に使われていますね。
「あれはハリウッドと比べた日本の映画界そのものです。いや、ほめているんですよ。でも、それを声高にメッセージとして語ってしまったり、シークエンスとしてどうだ!って胸を張るんじゃなくて、凛と立っていることがいいって思ったんです。結果的に見れば、よくやってるじゃんと思ってもらえたらそれでいいと。その辺は、微妙なさじ加減だと思うんですが、瀧本さん(監督)は品良く芯の強さみたいなのを拾ってくれたと思います」

――幾層ものエピソードが重なっていき、少しずつ琴線に触れていく物語でした。
「僕、この映画ってボレロじゃないかなって気がするんです。交響曲みたいに壮大なシンフォニーとして、第一楽章、第二楽章、第三楽章があって、ワーッて見せるのではなく、本当に同じリズムを非常に分かりやすい旋律でつむいでいく。単体の楽器から始まり、いろんな楽器が入ってきて、たまに不協和音があったかと思えば、また単体に戻る。その中でだんだんオーケストレーションになっていく。同じ曲をずっと聴いてるつもりなんだけど、ものすごく高揚感がある。そういう群像劇として成り得たんじゃないかなと」

――脚本はかなり練られたのですか?
「あれだけいろんな情報があったので、群像劇としてどこを描くべきか、彼らの日常生活も描くべきかと悩みました。たとえば『陽はまた昇る』では、VHSを開発した男性の家族や夫婦というシークエンスを描きましたが、東映映画としてはそういったところも描きたいという想いがあって。それで脚本作りの段階で東日本大震災に遭い、この映画の本質が今の時代にどうフィットしていけるか、どういうふうに寄り添っていけるかってことが、僕らにとって大きなテーマにならざるを得なかったんです。そこで、これは困難に立ち向かった技術者たちの話に特化することで、この映画の存在意義みたいなものが、僕らの中で明確に見えたんです」

――山口のリーダーシップをどう受け止めましたか?
「目標設定値が手の届くところにあれば、そんなにリーダーシップっていらない気がするんです。でも、設定値が高いところにあると、ただ協力し合うだけでは到底たどりつけないと思います。今回は、個々のアイデアや開発能力を150%くらい要求しなければいけなかった。しかも、彼自身がきちんと相手と渡り合える知識を持っていることが必要だった。本当にとんでもない人だと思います」

――客観的に見て、彼のようなリーダー像は周りにいると思いますか?
「結構いると思います。僕は落合(博満・元中日ドラゴンズ監督)さんがそうだと思う。メディアやファンを敵に回そうが、勝つってことだけに特化していく。彼はチームもファンもこうあるべきだってことを、明らかにバッと崩すでしょ。『中日は今、こういうチームなんだから』って言いながら、チームを身近で見て判断する。それでやっていって、もし成績が落ちていったらそれは糾弾されるべきだけど、ちゃんと成果を残してきた。そうすると、やっぱり正しいよねってなるんです。ある意味、現場至上主義みたいなところがあるんじゃないかと」

――リスクをおかしてでもやろうという判断を下すのは難しそうです。
「リスクヘッジという考え方でいくと、最初の想いが勝つかってことですよ。まず、夢があれば、そこにリスクが生まれるのは当たり前だし。だって、誰もやったことがないし、想像もできないことなんだから。でも、リスクがあるからどうしようってことじゃなく、この夢を叶えるために、リスクを乗り越えるんだというプロセスがあれば、リスクってのはただ単にハードルなだけなんです。全然見えない壁ではない。映画作りもそうで、これは入らないとか、これは当たらないってことが先に来てしまうこと自体が問題であり、その前に強い想いがあれば、じゃあこのリスクは超えていこうよって話になるんです。僕も最近、これどうなるんだろうっていう作品が多くて(笑)。そんな時、ちょっと待てよ、僕はなぜこの作品をやりたいと思ったのかってところに立ち返るんです」

――俳優のキャリアの立ち位置についてはどう考えていますか?
「みなさんに思われているよりも、僕はフレキシブルでいたい。外国のメディアの方に『あなたはなぜいつもAランクの仕事だけをやれるのか?』って聞かれるんです。それで『いや、別にAランクの仕事ばかりを選んでいるわけじゃなくて、仕事として役として、興味のあるものを選んでいくだけです』って答える。それは共演者や監督、作品の内容だったりするわけで。それは日本でも全く同じで、キャリアってのは、人に言われてああそうなんだって思うくらいで、単なる足あとだから、次にやる作品においては何の価値もないんです。たまにちょっと横道に逸れるかもしれませんが、自分は常に前にしか歩いてないからね」

――今回、町工場の社長・東出役の山崎努さんとの共演シーンが印象的でしたが、撮影の裏話はありますか?
「山崎さんとの撮影は1日だけだったけど、クランクインした時から、僕のカレンダーには赤マークが付いていたんですよ。精神的にね。ああ明日か、ああ今日か、どうしようって思いながら待ちわびた日でね。(知り合って)もう30年になるから、ある意味、山さんは演劇の親父みたいなわけ。僕の恥ずかしい時も見てくれているし、僕も山さんの無茶苦茶なところも分かった上でお互いの役を背負ってきた。あの日の撮影は、瀧本監督に言わせると『山口では全然なくて、渡辺謙と山崎努にしか見えませんでした』って言われて。『それってまずくない?』って聞いたら『それが面白いんですよ』って。そういうのってどうしてもでちゃうんだよね。作り込んでも変だし、お互いそんなことを求めているわけじゃない。ただ、あのシーンだけ、山口が弱音を吐けるシーンだったから幸いしたと思います。でも、役でありながら、どこか僕は自分から脱却できないわけ。歴史も含めてね。だからこそ、ただ単純に外見だけを真似たり、ある種、衣だけをつけたような天ぷらを上げても意味がない。やっぱり素材として、その中にある核みたいなもの、芯みたいなものを、全身全霊の中で受け止めないといけないなと思いました」

Text : Nobuko Yamazaki
Photo :Megumi Nakaoka

はやぶさ 遥かなる帰還
(C) 2012「はやぶさ 遥かなる帰還」製作委員会

はやぶさ 遥かなる帰還
2012年1月21日(土)より
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ他全国ロードショー



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