VOICE magabon interview

No.273 伊藤英明(俳優)&三池崇史(映画監督)

三池監督の前で裸になって、エネルギーをぶつけられれば良い(伊藤)
ヒーローをやった年に、殺人鬼をやれる役者は、世界中を見てもそういない(三池)

今最も注目を集めている作家、貴志祐介の「悪の教典」がついに映画化。聖者の仮面をかぶり、高いIQと冷徹な行動力を併せ持った殺人鬼が巻き起こす惨劇を描き、週刊文春「2010年ミステリーベスト10」(国内部門)、宝島社「このミステリーがすごい!2011」(国内編)で、ともに1位を獲得したベストセラーミステリーだ。
“絶対悪”ともいえる殺人鬼の主人公に抜擢されたのは、「海猿」シリーズでの“正義のヒーロー”のイメージが強い伊藤英明。生まれながらにして他人への共感能力を欠く“サイコパス(反社会性人格障害)”という特殊な人格を持つ高校教師・蓮実聖司を、ゾクゾクするような静かな迫力と共に演じきる。
メガホンを取るのは、バイオレンス描写に定評のある三池祟史監督。圧倒的な演出力で、悪意と狂気、そして興奮に満ちたエンタテイメント作品として仕上げる手腕はさすが! なかでも、クライマックスの惨劇の一夜は圧巻の一言だ。
また、映画公開に先駆けて、BeeTVにてドラマ「悪の教典-序章-」も配信中。映画では描ききれなかった原作の“もうひとつの物語”を映像化し、蓮実の凶行の伏線を明らかにする。
そこで、伊藤英明と三池監督にインタビューを敢行! 衝撃作の見どころから、お互いへの思いまでを、たっぷりと語ってもらう。

伊藤英明&三池崇史

――まずドラマ版のお話を伺いたいのですが、ドラマ版を演じる際に気をつけたことを教えてください。
伊藤英明(以下I)「今回、映画はR-15+という規定がかかっているので、広めるのがちょっと難しいのかなと思っていたんですね。それと、原作は膨大な量なので、映画にする時にそぎ落とされた部分もある。そういった面での補足や伏線になれば良いなと思いました。だけどどうしても携帯の画面サイズって難しいんですよね! でも、単なる携帯ドラマの括りから外れて、非常に素晴らしいものが出来上がったと思います」

――ドラマ版の共演者の方の印象を聞かせてください。
I「僕が勝手に思っているんですが、女優さんって本当にたくましいし、心が強い。今回の女優さんたちもそうで、中越(典子)さんは、初めて共演させてもらったんですが、声がすごく魅力的で耳にした時にすごく心地が良い。間も良いですし、やりとりがすごく楽しかったですね。高岡(早紀)さんは、人生を全て受け入れているような、本当に素晴らしい女優さん。僕らって、人生の色々とある部分を、ちょっとずつ演技としてエネルギーに変えていかなきゃならないと思うんです。今回は、中越さんや高岡さんなど、どうやったら作品がクオリティの高いものに仕上がるかを、知恵を絞り合ったり、きちんと話ができたりする共演者の方々とご一緒できた。本当に共演者に恵まれて良かったなと思っています」

――膨大な量の原作を映画化する際に、気をつけたことは何ですか?
三池祟史(以下M)「あくまで自分が読んで、ということですが、中心に流れていると思うものだけを大事に、あとはそぎ落としていったんです。原作では、ラストへ向かうまで群像劇の広がりを見せて、最後に蓮実に集約させている。その部分をシンプルにした。シンプルにする時にも、映画的な余計な物語をくっつけないようにして。色々なアプローチがあると思いますが、やっぱりシンプルが一番強いんじゃないかなと思いました」

――聖者と殺人鬼という、蓮実の二面性をどう感じましたか?
I「最初は『サイコパスならば、こう演じなければならない』というのを、頭で考えてしまっていたんですが、この蓮実という男はどこか純粋で、動物的な本能を持っているんですよね。だから頭で考えるよりは、三池監督の前で心を裸にして、エネルギーみたいなものをぶつけられれば良いなと思いました」
M「蓮実は素の時と人と接している時と、本人の中では境界線はないんです。それは自然に身につけてきた技なんでしょうが、それをごく自然にこなしている。だから芝居としても、意識しすぎない、演じ分けないのが大事で。狂気というのは、演じると型にはまってしまうんです。蓮実にひとつだけ欠けている、共感能力と言われているものは、恐らく人間だけが持っているもの。それに、そもそもこれが人に備わっていたのかと言うと、その昔は人間にもなかったはずなんですよね。でもちゃんと社会を作って生きていく中で、より自分の身を守るために芽生えてきた能力だと思う。蓮実は、なぜかそれが欠落して生まれてしまった。より動物的というか、人間らしく生まれてきてしまったのかなと思うんです」

――では、蓮実という人物をどのように描きたいと思ったのでしょうか。
M「何かが欠落した人間を哀れに見るというのは、やっぱりエゴやおごりになると思う。決して、蓮実は共感できる人間ではないんだけれど、恐怖に感じつつも、興味深く彼を見ていくというのが、自分のこの映画に対するスタンスで。見る人は、『人間ってやっぱり怖いよね』とか、『ひどい話だな』って思いながらも、どこかで蓮実を応援しちゃっていたり、何かスカッとするというようなところがあると思う。要は、映画を見ているわずかな時間でも、観客にも殺して良いキャラクターができているんですよね。蓮実が殺したら、『よくやった、蓮実!』ってね(笑)。その人の人生をそんなに知らないはずなのに、『コイツは殺しても良い』『コイツはかわいそう』と、差別化をしてしまう。それが『まっとうな人間の感覚なんだろうか?』という、普段は感じない興奮を楽しんでほしい。それを蓮実のおかげで楽しめたと、欠落した人間を受け入れてもらえれば嬉しいですね。誰もが、最初から殺されて良いと思えるのは、山田孝之の役くらいですから(笑)。あれは良いキャスティングだったなあ(笑)」

――ヒーローのイメージが強い伊藤さんにとって、蓮実役は新たな挑戦だったのではないでしょうか。
I「やはりチャレンジでしたね。役者っていうのは、いつまでも、どこか自信がないもので、役をいただいた時に『この役はできないかもしれない』って思うんです。でもそこに全力で取り組んでいくというのが大事で。僕は『海猿』がヒットした年に、全く逆の役柄に挑むことができて、とても恵まれていると思う。ヒーローを演じたからって、この役を迷いながらやったり、どこか良い人の部分を出そうとしたら、『海猿』を応援してくれたファンの方々にも申し訳ない。ここはもう、監督やスタッフ、キャストを信じて、僕は裸になって全力で振り切るしかないという思いで挑みました。僕はまだ役者人生が13年足らずですが、30代、40代、もしかしたら80代の役者の面白さもあるんじゃないかと思ったら、どんどん楽しみになってきたんです」

――伊藤さんと監督は、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』以来、5年ぶりのタッグとなりました。伊藤さんにとって、三池監督はどんな監督ですか?
I「エネルギーの塊を持った人ですね。監督の現場は、『童心に戻って、ピュアな気持ちで作品に取り組むってこんなに楽しいんだ』って思える。蓮実役に対しても、言葉では教えてくれないんです。僕はもう監督の前でエネルギーをぶつけていけば良かった。下手でも間違っても、失敗しても良いから、やるだけやれば良いんだって。役者の世界って、ベテランから新人までが同じフィールドで戦うわけじゃないですか。魂のやりとりのようなもので。その時に出たエネルギーってものすごいものですから。監督はそれぞれの個性を見て、違った演出法をとるんです。人を見抜く力が優れているんですね。僕はある意味、監督が蓮実だなと思って。人間をわかっているからこそ、僕も見透かされているようで、監督と話すのが怖い時がある。でもそこに愛があるんですよね。監督と5年ぶりにやらせていただいて、改めて感じた。もう一度、三池塾で人やものに対する捉え方をストイックに教え込まれたな、という気がしています」



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