VOICE magabon interview

No.70 犬童一心(映画監督)

サスペンスドラマの定番“犯人が崖で罪を告白”スタイルは「ゼロの焦点」が元ネタ。
早い段階で犯人が分かってしまいますが、分かったその後も面白く描いています。

日本ミステリー界を牽引してきた文豪、松本清張。戦後文学界に社会派推理小説の新風を起こし、「砂の器」「点と線」をはじめとする数々の名作は、時を経た現代も色あせず輝きを放っている。
そしてついに生誕100年を迎える本年、清張不朽の名作と称賛される至高のミステリー「ゼロの焦点」が満を持して映画化。舞台は、戦後日本が大きく変わろうとしていた新時代への転換期。主人公・鵜原禎子(広末涼子)が、結婚式からわずか7日で失踪した夫・憲一(西島秀俊)の足跡を辿って、北陸・金沢へと旅立つところから物語ははじまる。彼の得意先である会社の社長夫人・室田佐知子(中谷美紀)、受付嬢・田沼久子(木村多江)に出会い、夫の秘密に迫るにつれて、関係者が次々に殺されていくという恐るべき事件が起きる――。
本作の監督は、「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」ほか、次々と話題作を世に送り出す犬童一心。彼の単独インタビューを敢行し、最高のキャストでおくる本作の見どころを直撃する。

犬童一心

――監督が初めて「ゼロの焦点」と出会ったのは?
「小学生の頃、テレビで野村芳太郎監督の映画『ゼロの焦点』(1961年)を観ました。一番印象に残っているのは、憲一と禎子が一緒にお風呂に入っていて、憲一がニヤニヤしながら『君は若いな』というシーン。あとは、日本海の荒れた海や厚い雲とか、暗く重々しいビジュアルはよく覚えています。いまや2時間サスペンスドラマの定番ともいえる“犯人が崖で罪を告白する”というスタイルは、前の映画が元ネタになっているんですよ。崖というものを、犯罪者がギリギリに追いつめられている気持ちの象徴として松本清張が書き、映画ではそれに犯人の告白を加えているんです」

――本作を撮るにあたって、あえて犬童監督視点で演出した点は?
「基本的なストーリーラインは原作と同じですが、一番の大きな違いは、犯人が何のために殺人を犯したかという理由。原作では、豊かになった自分の状況を維持するために人殺しをするんですけど、今の人たちは『そんなことのために人を殺すの?』と思いかねないんですよ。原作に忠実に描くと伝わりづらいと思ったので、夢や未来のために殺さなければならなかったというふうにしています」

――反対に、原作や野村監督作品を参考にした点はどこですか?
「前作の映画も早い段階で犯人が分かってしまいますが、その後を面白く描いているところです。分かった後も面白く観られるという点で、前の映画を目指していました。とは言っても、この映画なりの新たな展開を編み出さなければいけないと思ったので、そのために時間をかけました」

――“新たな展開”とは、具体的にどんなところですか?
「あまり重要な人物ではなかった久子を、物語の核にしています。これには裏話があって、久子役に良い女優さんをキャスティングしたいがために、『この役なら演じたい』と思ってもらえるような山場を作ったんです。特に、中盤以降に物語が盛り上がる場面で、久子の存在が活かされるように撮りました。原作や前の映画とは全く違う展開になっています」

――久子役の木村さんほか、広末さん、中谷さん、そして西島さんをキャスティングした理由は?
「脚本ができる前から、まず中谷さんをキャスティングしていました。30代半ばの社長夫人というキャラクターの強い役なので、演技力がある人でないと面白く膨らませられないと思い、中谷さんにオファーしたんです。禎子役は中谷さんに対抗できる人を探していくという作業になり、広末さんが最も適任ということで決まりました。西島くんに関しては、実は中谷さんよりも先に、脚本を書いている段階で彼をイメージしていました。実は、原作では憲一について全然触れていませんが、どこか謎めいて色っぽい男として憲一を登場させたかったんです。西島くんはまさに、色っぽい謎を持っているんですよね。余談ですが、男の人はそれぞれ謎を持っているけれど、女の人が興味を抱くのは色っぽい謎を持っている人だけだと思います」



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